とにかく素晴らしい映画である。
何が素晴らしいのかと言えば、何も起こらないことが素晴らしいのだ。
市井の人々の状況を、ひたすら平行に同時に描き続ける。その複数のエピソードは一体何組になるのかな? 数えるのも面倒臭い。パッケージを見ると主役は9名のようだ。とにかく均等に複数の人間模様が淡々と描かれていく。
勿論どのエピソードも飽きが来ないように丁寧に作られている。が、当然9名の人物を手を抜かずに平行に描けば、映画としての時間も当然長くなってしまう。189分である。商業映画としてはかなり危険で無謀な長さの領域である。
さすがに引き込まれながら観ていても、一体どうやって収拾付けるんだよ、と不安になるその頃、あのクライマックスが訪れた!
本当、見事である。良くぞやってくれた! もう最高!
意味とか、設定とか、辻褄とか、内容とか、そんなことはどうでも良く、理解出来るのだ! この世界が! あらぬ手段で強引に納得させられるのだ。
正しく映画というメディアだけが持つ映画的な表現手法を、この『マグノリア』は見事に提示した。あの訳の判らんクライマックスは文字で読んでもつまらないし、言葉で説明されても納得いく筈のない世界である。しかし映画としてそこへ収束させられると、すべての合点がいくのだ。すべてが解決するのだ。映画的文法に乗っ取ったカタルシスの爆発である。本当に魅力的な映画。最高の映画である。
果たしてクエンティン・タランティーノは純粋な映像作家なのか、メジャー志向としてのエンターティナーなのかが、未だに良く判らず区分けできないのだが(元々、そんな区分けは必要ない)、このポール・トーマス・アンダーソンも、実にその辺の匂いがして、大好きなスタイルを持った監督である。
常にやたらと敷居が低い。が、何喰わぬ顔でトンでもない世界を構築するのである。前作『ブギーナイツ(1997)』の時は期待して劇場へも行ったが、世間の評判程、それほど楽しめなかった。ボカシ云々以前に、そこまで引っ張って行って貰えなかったのだ。
何が一番合わなかったのかと言えば、マーク・猿・キッズ・オン・ブロック・ウォールバーグである。生理的に駄目だったのだ、あの顔が。終始、何で中年アイドル歌手なんか使うんだよ? と思ってしまった。が、その後の活躍である。『猿の惑星』に迄昇り詰め、また何の抵抗もなく観ている自分が居た…。ゴメンなさい。『マグノリア』鑑賞後、WOWOWで『ブギーナイツ』をやっていたので、何気なく観ていたら確かにハマッてしまった! これまたゴメンなさい!
結局、役者の発掘も上手いのである、この監督は。
『マグノリア』でのトム・クルーズは出色の出来である。過去のイメージを全部消し去ってくれた。というか、こちらが想像するトム・クルーズがそこには居た! 後から考えると、『ブギーナイツ』のマーク・ウォールバーグも実際の経歴と重ね合わせた部分が伺える。ナルホドね、である。
のめり込むと徹底的に付き合う癖があり、1作目の『ハードエイト(1996)』もチェックした。が、これはまだ習作というか、ポール・トーマス・アンダーソンの世界は構築されていない。明らかに『マグノリア』が異常なのである。3作目としてのマジックに溢れている。もうこの作品は撮れないよ、ポール・トーマス・アンダーソン! 良くやってくれました。有難う! お見事! 因みに1970年生まれの監督なのだが、何でこんな達観した世界が撮れるんだ?
カメラも良い(メイキングを観ると自分で撮っている)。シナリオも良い。
で、オープニングが素晴らしいのだ。もう完璧である。あの早口のエピソードから始まるネタ、あのコミカルな画、眼を見張る色彩感覚。もう素晴らしい! で、そのままオープニング・テーマ曲へとなだれ込む。あの一連の流れで、もうゾッとした。感動したのだ。
映像だけではない。曲もよろしい。音楽を知っている人なのだ。個人的に好みが近いかも…、というのが最大級に誉める原因なんだけど、とにかくセンスが良い! 一流の映画監督は皆、音楽の判る人だと感じてはいるが、この人のセンスは並大抵ではない。因みに実生活での彼女は、あのフィオナ・アップルである! もう私生活自体、マグノリアなのである!
先に記したクライマックスによって、もうハチャメチャな映画であることには間違いない。本当、良くここまでまとめ上げた、というだけでも感動する。あのクライマックスに命を賭けたんだろうな、ILMだろ。もう最高である。本当、最高!
ここ数年、その年のベスト1を選ぶ訳でもなく自然と決まっていて、『シーズ・ソー・ラブリー』『シン・レッド・ライン』『ダンサー・イン・ザ・ダーク』ってなラインなんだけど、明らかに『マグノリア』は突出している。
結局、その人間を描く部分と、そのポップ性、そしてその構成力が、半端じゃないのだ。嫉妬するよな、こういう監督の作品は。
女優もみんなキレイ! 加えて、一番物語を支えている(と感じた)警官/ジョン・C・ライリーは、個人的にいつでも名古屋の竹ちゃんを思い出す。
最後に付け加えておくと、人間の描き方は小津並みの木目の細かさです。