あらゆる世界の月とカビ 得ることと失うこと 1992/07
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 自分の気持ちや考えを、このように文字にしたり、誰かに話したりした後、とても落ち込んでしまう。その気持ちは嘘ではなかったはずなのに「嘘だろ」と直感で感じてしまう。今、この時点でも思っている。
 僕の心の中の動きは当然、言葉や音や画面で構成されたものではないだろうし、その一瞬一瞬の変化は、時間という概念に囚われていないからなのだろう。

全て嘘だ。偽りだ。

 かと言って、当然、嘘も書いていない。喋っていない。では何故、そう感じてしまうかだ。結局、思った全てのことが消化されていないのが、一番の原因だからなのだろう。幾ら、正直に書きました、これは真実です、と言ったところで、それだけではないはずなのだから。
 しかし、それらは全て表現することが困難であったとしても、全く書かなかったり、話さなかったりすると、その考えの概要さえ、どこかへ葬り去られてしまう。消されてしまう。全く、厄介だ。

悩んで、悩んで、悩み抜いてる。

 なんて書こうと思えば、いつでも書ける。実際、今、そう思っているし、それと同時に脳ミソの裏の方で、ゲラゲラ笑い飛ばしている。まだ、何もやってないじゃないか!!

ロックン・ロールは最高だ。ロックン・ロールは最低だ。

「作品」を作ることは、本当に素晴らしい。初めから全てが虚構の世界の出来事なので、自己の主張、テーマだけは抜群に語ることができる。本当に抜ける。これは気持ちいい。しかし、それだけ創作には苦痛が伴う。並の苦痛ではないと思うのだけど、どれも最後迄完成出来ず、結局いつも途中で逃げてしまうので、快楽も中途半端な訳だ。

 逃げると割と楽で、何もしなくて、何も考えなくて、あの作品を作るテーマの“馬鹿野郎”と思える人物に自分が変化していく。そして慌てる。でもその時、これがまた何一つ浮かばない。結局、浮かばせるコツを既に忘れている。
 〜それが今だ。悩んでいる、のかな? とにかくヤバイ、怖い。

 生活をだらだら繰り返していると、性欲や金欲にいつも振り回されてしまう。その一つが“就職”だった。
 退職して一年間が経ち、何社か中途採用の募集に応募した。笑ってしまうように落ちた。これが結果的には良かった、のかどうかは知らないが、とにかく、今の状態がコレだ。きっと同じことになっていた。

 目からウロコが落ちるというか、就職というシステムに対して抱いていたものを見事に解決してくれたのは、ビートたけしだった。
 「TVタックル」の人生相談の特集で、若い女の娘からの相談に対して答えたときだった。その娘は、仕事に就くと覚えている内は面白いのだけれど、それから先が何も無いと嫌になってしまい、つい転職してしまう。初めは、まだ若いからと思っていたのだが、どうも転職がクセになっているのでは、ととても不安に感じ始めてきたという。
 解答者達が「贅沢な…」「最低三年はやらなきゃ…」「今の若いものは…」となり、最後にたけしが言った。

「この娘、頭がいいんだよ。仕事覚えちゃったら、つまらなくなるの当然だよ」
 僕はその答えに魅かれた。何故か? 自分が言い訳されている気がしたのだ。見事な迄に。そして、たけしは続けた。

「ただね、この娘、自分に合う仕事探してると思うんだ。だけど、そこで勘違いしちゃいけないのは、金の為、生活の為の仕事なのか、自分のスタイルの為の仕事なのか、区別してるかどうかだね。そこで、自分自身の為の仕事を探して、金もある程度貰おうなんて、絶対無理だからね。どちらかなんだよ。俺はその点、仕事としてではなく、スタイルとして漫才師を選んだ。成功しようが、失敗しようが、二の次なんだ。売れなくても格好良いと思ったから、そっちを選んだ。喰えないときは肉体労働に行ったし、たまたま、それで俺は売れたけど、そのところをはっきりさせてないとね、自分の好きなことで飯喰おうなんて甘い話はないから」

 ガツーンときた。とくに「成功しようが、失敗しようが、それは二の次なんだ」がいい、スタイルだ、そう思った。これだ! これだよ、これ、そうか!! だった。
 俺はそれを勘違いしていたし、あの世間体、そうあの大好きな、それにこだわっていたんだと知らされた、気持ち良かった。

 余分なものは排除し、あー、これだ。ヒッヒッヒ…

 あーあ、なんだ… 今、ぬきたい!!

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